「応能負担」から「応益負担」へ(障害者自立支援法の基礎知識)

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「応能負担」から「応益負担」へ

従来、福祉・医療サービスは、助成を受ける人の年収によって自己負担金が設定されていました。つまり、年収金額に応じて、どんなに高額な医療やサービスを受けても、自分の払える範囲で(「応能」)の負担しか請求されなかったのです。

これからは自分が受けたサービスの値段に応じ(「応益」)、その1割を必ず請求されることになります。医療費、施設利用費、車椅子や装具などの購入費など。装具は、子どもだと成長が早いので、ひんぱんに作り変える必要がでてきます。大人でも、筋力の衰えなどでサイズが合わなくなることがあります。また、「誰でも食事はする」ということで、施設などでの食費は全額実費負担となりました。

問題は、この「1割」が当事者の家計を非常に圧迫している点です。常に介護が必要な障害者を抱える家庭で、ヘルパーなどをつける場合、今までより負担が3倍以上にはね上がっています。上限は1ヶ月約4万円。1ヶ月の支出が急に3万円増えたら、それも毎月であれば、どんな家庭でもやりくりは大変です。さらに家に介護を必要とする人がいるのですから、収入を増やしたい、働きに出る、といっても、ままなりません。

その結果、経費を抑えるためにサービスを受けない人が出てきます。訓練や治療の停滞は障害者本人の症状悪化につながり、介護時間の増大により、家族の負担が倍加します。「お金がないから」と治療や訓練をあきらめるなんて、一体、いつの話なのかと耳を疑います。「障害者運動30年の理念・成果を根底から否定する」と危惧する声も上っています。

年収が極端に少ない場合は、負担軽減がありますが、「生活保護世帯」「低所得1」「低所得2」の区分だけで、対象はほぼ非課税世帯に限られます。重度手当などを受給していると、年収規準の「低所得2」を超え、減免がなくなることがあります。「どこからも援助がない、ものすごく困っている人」への措置を、かろうじて残したという形です。

「月4万以上にはならないんだから、いいんじゃない?」そんな声も聞こえてきます。でも、治療や介護にかかるお金は、法律の対象になるものばかりではありません。入院したら、差額ベッド代は対象外。通院の交通費も別です。また、24時間介護が必要な場合でも、全時間が1割対象と認められるわけではありません。上限を超えると、あとは自費(10割負担)になってしまいます。

財源不足という現実の中で、福祉を充実させるのは至難の業です。ある程度、当事者の負担が増加するのは仕方がありません。しかし、少ない財源だからこそ、本当に必要な人に必要なお金がまわってほしいものです。数値や書類だけが一人歩きして、利用者の生活現状が見えなくならないよう、利用者の意見に耳を傾けた、きめの細かい対応が重要になるでしょう。

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執筆ライター 仲野マリ

【プロフィール・実績など】

2001年ダンスマガジンの「ダンス評論賞」で佳作入賞「同性愛の至福と絶望―AMP版白鳥の湖をプルースト世界から読み解く」。Femme Politique 52号(2006年6月末発行予定)「小沢一郎はいったいいかなる人物か」(取材・執筆協力)/「財政に強くなろう(2)」(講話まとめ)。障害者団体会報の編集に10年ほど関わり、年5回の会報を企画・編集・校正・入稿まで手がける。


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